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無宗教葬と音楽の深い関係
近年、特定の宗教宗派の儀礼にとらわれず、より自由な形式で故人を見送る「無宗教葬(自由葬)」を選ぶ方が増えています。この無宗教葬において、読経や賛美歌に代わって、式の中心的な役割を担い、その人らしいお別れを演出する上で、絶対に欠かせない要素となるのが「音楽」です。無宗教葬では、決まった式次第はありません。ご遺族と葬儀社が、一から自由に、お別れのプログラムを組み立てていきます。そのプログラムの骨格となり、全体の雰囲気や流れを作り出すのが、BGMとして流される音楽なのです。例えば、参列者が入場し、開式を待つ間は、故人が好きだった、穏やかなクラシック音楽や、ピアノのインストゥルメンタル曲を流し、心を落ち着ける静かな空間を創り出します。式の冒頭では、故人の人生を象徴するような、少しドラマチックな曲と共に、司会者が故人の生涯を紹介します。そして、式の中盤では、故人の思い出を語り合う「偲ぶ時間」が設けられます。ここでは、故人が青春時代によく聴いていた懐かしいポップスや、家族旅行の車の中でいつもかかっていた歌謡曲などを流します。音楽は、記憶の引き金です。そのメロディーを聴いた瞬間、参列者の心の中には、故人との楽しかった思い出が、鮮やかに蘇ってきます。会場のあちこちから、すすり泣きと共に、微笑みがこぼれる。そんな温かい時間が、音楽によって生み出されるのです。そして、最後のお別れ、献花の場面では、最も感動的な、故人が人生で一番愛した曲を、クライマックスとして流します。あるいは、ご遺族や友人たちが、故人に捧げる歌を、全員で合唱する、という演出も、深い感動を呼びます。プロの演奏家を招き、ピアノやヴァイオリン、ギターなどの生演奏で、故人の愛した曲を奏でてもらうのも、無宗教葬ならではの、非常に贅沢で、心に残るお別れの形です。このように、無宗教葬における音楽は、単なるBGMではありません。それは、読経が担っていた、故人の魂を鎮め、残された人々の心を繋ぎ、儀式に神聖な雰囲気を与える、という役割そのものを、現代的な感性で担う、最も重要な「儀礼」なのです。どの曲を選ぶか、どのタイミングで流すか。その選択の一つ一つが、故人への、世界でたった一つの、オーダーメイドのレクイエムを創り上げていくのです。
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葬儀の返礼品で選ばれる定番とその理由
葬儀の返礼品には、どのような品物が選ばれるのが一般的で、その背景にはどのような理由があるのでしょうか。返礼品に選ばれる品物には、「不祝儀を残さない」という、日本の葬送文化に根ざした独特の考え方に基づいた、いくつかの共通した特徴があります。これは、いただいた悲しみを、いつまでもその家に引きずらせないように、という、贈る側からの深い願いと配慮が込められた、美しい習慣です。この「不祝儀を残さない」という考え方から、返礼品の定番となっているのが、いわゆる「消えもの」と呼ばれる、使ったり食べたりしたら、形として残らずになくなる品物です。その代表格が「お茶」や「コーヒー」といった飲み物です。飲み物は、性別や年齢を問わず、誰が受け取っても困ることが少なく、日持ちもするため、非常に実用的な選択肢です。また、故人を偲びながらお茶を飲んでいただくことで、供養にも繋がると考えられています。古くから、お茶にはその場の境界を区切り、日常と非日常を分ける力があると信じられており、弔いの儀式を終えて日常に戻る、という区切りを象徴する品物としても、非常にふさわしいのです。同様に、「海苔」や「砂糖」、「お菓子」といった食品も人気があります。海苔は、軽くて持ち帰りやすく、日持ちもするため重宝されます。砂糖は、仏教で白が穢れのない清浄さを表すことや、かつては非常に貴重な品であったことから、敬意を示す品物として用いられてきました。お菓子を選ぶ場合は、日持ちのするクッキーやおかき、バームクーヘンといった焼き菓子が一般的です。食品以外では、「石鹸」や「洗剤」、「入浴剤」といった日用品も定番です。これらは「悲しみを洗い流す」という、非常に分かりやすい意味合いが込められており、消えものの一つとして広く選ばれています。また、実用性の高い「タオル」や「ハンカチ」もよく用いられます。タオルやハンカチは、涙を拭う布として、悲しみの場に寄り添う品物とされています。ただし、タオルなどを選ぶ場合は、不幸が続くことを連想させないよう、白やグレー、紺といった地味な色合いで、シンプルなデザインのものを選ぶのがマナーです。このように、葬儀の返礼品に選ばれる品物には、ただ実用的であるだけでなく、故人を悼み、受け取った人のその後の平穏を願う、ご遺族からの静かで温かいメッセージが込められているのです。