故人が好きだった、思い出のポップスや歌謡曲を、葬儀で流したい。その願いは、近年、ごく当たり前のものになりつつあります。しかし、この「市販の楽曲」を葬儀の場で使用する際には、「著作権」という、法律上の問題が関わってくることを、私たちは知っておく必要があります。何も知らずに無断で使用してしまうと、意図せず著作権侵害となってしまう可能性もゼロではありません。まず、大前提として、日本で販売されているほとんどの楽曲は、作詞家、作曲家、そしてレコード会社などの権利者が「著作権」を持っています。そして、これらの楽曲を、公の場で、営利・非営利を問わず演奏したり、再生したりする際には、原則として、著作権者の許可を得て、所定の使用料を支払う必要がある、と法律で定められています。葬儀は、私的な集まりではありますが、不特定多数の人が集まる場であり、商業施設である斎場で行われるため、「公の場」と見なされるのが一般的です。したがって、厳密に言えば、葬儀で市販のCDを再生する場合も、著作権の手続きが必要となるのです。この著作権の管理を、包括的に行っているのが「JASRAC(日本音楽著作権協会)」です。葬儀社や斎場が、JASRACと年間包括契約を結んでいる場合は、その施設内で楽曲を使用することに、法的な問題は生じません。近年、多くの大手葬儀社や斎場では、この包括契約を結ぶ動きが広がっています。そのため、まずは葬儀を依頼する葬儀社に、「こちらで用意したCDを流したいのですが、著作権の手続きは大丈夫でしょうか」と、直接確認するのが、最も確実な方法です。もし、葬儀社がJASRACと契約していない場合は、ご遺族が、個別にJASRACのウェブサイトなどから、一曲ごとの使用許諾申請を行い、数百円程度の使用料を支払う、という手続きが必要になります。また、プロの演奏家による「生演奏」の場合も、同様に著作権の手続きが必要です。少し面倒に感じられるかもしれませんが、これは、音楽という文化を創り出したアーティストたちの権利を守るための、非常に重要なルールです。故人が愛した素晴らしい音楽への敬意を払う、という意味でも、この著作権の問題を正しく理解し、適切な手続きを踏むことが、品格のあるお別れに繋がるのです。
葬儀での音楽使用と著作権の問題