形見分けは、故人を偲ぶ心温まる慣習ですが、そのタイミングと対象となる品物によっては、思わぬ遺産相続トラブルに発展するリスクをはらんでいます。特に、相続人や遺産の全体像が確定する前、つまり「遺産分割協議」が終わる前に形見分けを行ってしまうことには、細心の注意が必要です。形見分けで分け合う品物の中には、腕時計や貴金属、骨董品、美術品、あるいは価値のある着物など、財産的な価値を持つものが含まれていることがあります。法律上、これらの品物は故人の「遺産」の一部とみなされます。遺産は、法定相続人全員の共有財産であり、誰が何を相続するかは、遺産分割協議によって決められなければなりません。もし、協議が終わる前に特定の相続人が価値のある品物を「形見だから」という理由で持ち去ってしまった場合、他の相続人から「不公平だ」「勝手に遺産を処分した」と見なされ、争いの火種になりかねません。その品の価値が相続分を超えていた場合、後からその分を金銭で精算(代償分割)するよう求められることもあります。こうしたトラブルを避けるために最も重要なのは、形見分けを「遺産分割協議の後」に行うことです。まずは、弁護士や司法書士などの専門家も交え、相続人全員で遺産の全容を把握し、誰が何を相続するのかを明確にします。その上で、財産的価値がほとんどない衣類や書籍、趣味の道具などを「純粋な形見」として分け合い、価値のある品物については、相続した人が本人の意思で他の親族に贈与する、という形を取るのが最も安全で揉めない進め方です。故人を偲ぶ気持ちが、親族間の争いを引き起こすことのないよう、形見分けのタイミングと相続のルールは、正しく理解しておく必要があります。