故人様のご遺体を、葬儀の日まで安らかで美しい状態に保つための方法として、日本では「ドライアイス」による冷却が最も一般的です。しかし、欧米などを中心に、より積極的な保全処置として「エンバーミング」という技術が広く行われていることも、知っておくと良いでしょう。この二つの方法は、目的は同じでも、そのアプローチと効果、そして費用が大きく異なります。まず、「ドライアイス処置」は、これまで述べてきた通り、ご遺体を外部から冷却することで、腐敗の進行を「遅らせる」方法です。マイナス七十九度のドライアイスで体温を下げることにより、細菌の活動を抑制します。これは、あくまで一時的な処置であり、時間の経過と共に、少しずつお体の変化は進行していきます。メリットは、ほとんど全ての葬儀プランに標準で含まれており、比較的安価であること。デメリットは、保全効果が数日間と限られており、常にドライアイスの交換が必要であること、そしてご遺体に触れると非常に冷たい、という点です-。一方、「エンバーミング」は、ご遺体に専門的な外科的・化学的な処置を施すことで、腐敗を「防ぎ」、長期的な保全を可能にする技術です。エンバーマーと呼ばれる国家資格を持つ専門家が、ご遺体の血管(主に動脈)から、防腐・殺菌効果のある特殊な薬液を注入し、同時に、体内に残った血液を排出します。これにより、ご遺体は腐敗から守られるだけでなく、生前の元気だった頃に近い、自然な血色と、安らかな表情を取り戻すことができます。メリットは、その高い保全効果です。ドライアイスなしで、常温でも十日から二週間程度、美しい状態を保つことができ、感染症のリスクも防げます。闘病で痩せてしまったお顔をふっくらとさせたり、事故などで損傷した部分を修復したりすることも可能です。故人との対面を、より穏やかな気持ちで行えるという、ご遺族への精神的な効果は計り知れません。デメリットは、費用が高額であることです。処置には十五万円から二十五万円程度の費用がかかり、葬儀費用とは別に必要となります。また、ご遺体にメスを入れるということに、心理的な抵抗を感じる方もいるかもしれません。どちらの方法が良いかは、一概には言えません。
ドライアイス処置とエンバーミングの違い