水葬と海洋散骨似ているようで全く違う二つの弔い
「海に還りたい」という願いを叶える方法として、「水葬」と「海洋散骨」という二つの言葉が使われることがあります。どちらも海や水に関わる弔いの形ですが、その意味と内容は全く異なり、特に日本では法律上の扱いが決定的に違います。この違いを正しく理解しておくことは、後悔のないお別れの形を選ぶ上で非常に重要です。まず「水葬」とは、前述の通り、火葬を行わず、ご遺体をそのまま海や川などの水中に葬る方法です。これは、特定の宗教的儀式や歴史的慣習に基づくもので、日本では刑法の死体遺棄罪に抵触する可能性が極めて高く、原則として行うことはできません。つまり、ご遺体をそのまま海に還すことは、法律で禁じられているのです。一方、「海洋散骨」は、ご遺体を法律に則って火葬した後の「ご遺骨」を、細かく粉末状にしてから海に撒く行為を指します。重要なのは、①必ず火葬を経ていること、②ご遺骨をそのままの形で撒くのではなく、誰が見ても遺骨とは分からないよう、パウダー状にまですり潰すこと、の二点です。現在の日本には散骨を直接規制する法律はなく、専門業者などが周辺環境や漁業関係者に配慮し、陸地から十分に離れた沖合で節度をもって行う限り、社会的に容認されています。したがって、現代の日本で「海に還りたい」という故人や遺族の想いを合法的に実現できるのは、この海洋散骨ということになります。水葬がご遺体を自然の力で分解させ土に(水に)還すという思想であるのに対し、海洋散骨は火葬というプロセスを経て、生命の源である広大な海に魂を解放するという、より現代的な自然回帰の思想と言えるかもしれません。二つの言葉を混同せず、その違いを明確に認識することが大切です。