新型コロナウイルスのパンデミックは、葬儀という、最も伝統的と思われた儀式にも、半ば強制的に、大きな変化をもたらしました。その最も象徴的なものが「マスクの着用」です。この一枚の布が、葬儀の風景や、人々のコミュニケーションに、どのような影響を与えたのでしょうか。最も大きな変化は、「参列者の限定」と「葬儀の小規模化」が、一気に加速したことです。感染リスクを避けるため、多くのご遺族が、参列者をごく近しい身内に限定する「家族葬」を選択するようになりました。マスクをしてまで、遠方から無理に駆けつけることを、ためらう人も増えました。これにより、葬儀は、社会的な儀礼の場から、よりプライベートな、家族のお別れの場へと、その性格を大きく変えていきました。次に、儀式の内容そのものにも変化が見られました。マスクを着用しているため、僧侶の読経の声が聞き取りにくくなったり、弔辞を読む人の表情が伝わりにくくなったり、といった問題が生じました。また、最も大きな影響を受けたのが「会食」の場です。通夜振る舞いや精進落としといった、食事を共にしながら故人を偲ぶという、大切な時間が、感染防止の観点から、中止または大幅に縮小されることが多くなりました。食事の代わりに、持ち帰り用の弁当やギフトカードが渡される、といった新しいスタイルも登場しました。人と人との物理的な距離を保ち、接触を最小限に抑える。マスクが象徴するこの新しい生活様式は、葬儀から、人間的な温かみや、ウェットな部分を、少しずつ奪っていったようにも見えます。しかし、その一方で、私たちは、新しい弔いの形を模索し始めました。マスクをしていても、心を伝えるための、より丁寧なお辞儀。ソーシャルディスタンスを保ちながらも、視線で交わす、いたわりの気持ち。そして、物理的に会えない人々のために急速に普及した、Zoomなどを利用した「オンライン葬儀」。制約があるからこそ、私たちは、弔いの本質とは何かを、改めて問い直し、形は変わっても、故人を想う心を、どうにかして伝えようと、知恵を絞ってきたのです。マスクが当たり前になった数年間は、葬儀の歴史において、一つの大きな転換期として、記憶されることになるでしょう。
マスクが当たり前になった葬儀の変化