故人が生前大好きだったポップスや歌謡曲を、葬儀のBGMとして流したい。そのお気持ちは、故人らしさを表現する上で、非常に尊いものです。しかし、誰もが知っているポピュラーな楽曲を選ぶ際には、その歌詞の内容や、曲調が、葬儀という厳粛な場にふさわしいかどうか、慎重に判断する必要があります。ここでは、ポップスや歌謡曲を選ぶ際の、いくつかの注意点を解説します。まず、最も重要なのが「歌詞の内容」の確認です。メロディーがどんなに美しくても、歌詞に、死や別れを直接的に連想させる、あまりに悲壮感が強い言葉や、逆に、恋愛の喜びを歌うような、場違いに明るい言葉が含まれている場合は、避けるのが賢明です。また、「死」や「別れ」をテーマにした曲であっても、その表現が暴力的であったり、虚無的であったりするものは、葬儀の場にはふさわしくありません。参列者の中には、ご年配の方や、様々な宗教観を持つ方がいることを、常に念頭に置く必要があります。歌詞の内容が、普遍的な「感謝」「愛情」「旅立ち」「再会への希望」といった、ポジティブで、誰もが共感できるテーマを歌っている曲を選ぶのが、最も安全で、心に響く選択と言えるでしょう。次に、「曲調(アレンジ)」にも配慮が必要です。たとえ歌詞が素晴らしくても、アップテンポで、激しいリズムの曲は、静かで厳粛な葬儀の雰囲気を壊してしまいかねません。もし、故人が好きだった曲が、そのような曲調であった場合は、オルゴールバージョンや、ピアノや弦楽器によるインストゥルメンタル(歌なし)バージョンを探してみるのが、非常に良い方法です。歌声がないことで、歌詞の直接的な意味合いが和らぎ、メロディーの美しさだけが、心に静かに染み渡ります。また、葬儀社によっては、プロの演奏家による「生演奏」をオプションで依頼できる場合もあります。故人が好きだった曲を、ピアノやヴァイオリンの生演奏で捧げる、というのも、非常に感動的で、贅沢な演出です。故人らしさを追求するあまり、ご遺族の自己満足になってしまっては、本末転倒です。その曲を聴いた参列者全員が、心穏やかに、そして温かい気持ちで故人を偲ぶことができるか。その客観的な視点を、決して忘れないようにしましょう。
葬儀でポップスや歌謡曲を選ぶ際の注意点