新型コロナウイルスの世界的なパンデミックを経て、私たちの生活におけるマスクの存在は、かつてないほど大きなものとなりました。一時は、屋内屋外を問わず、マスク着用が半ば義務のようになっていましたが、現在は個人の判断に委ねられるようになっています。では、葬儀という、特別で厳粛な場において、マスクの着用は今、どのように考えられているのでしょうか。結論から言えば、現在の葬儀におけるマスク着用は「個人の判断が基本だが、着用が推奨される場面も多い」というのが実情です。葬儀には、高齢の方や、持病をお持ちで免疫力が低下している方が、多く参列されるという特性があります。こうした、いわゆる「重症化リスクの高い方々」への配慮から、たとえ法的な義務はなくても、自主的にマスクを着用するという選択は、非常に賢明で、思いやりのある行動と言えるでしょう。特に、通夜振る舞いや精進落としといった、会食の場や、狭い空間で多くの人が集まる場面では、感染拡大のリスクが高まります。ご遺族側が、受付などで「マスクの着用にご協力をお願いします」といった案内を出している場合もあります。その場合は、その案内に従うのが当然のマナーです。一方で、屋外での出棺の際や、人と人との距離が十分に保てる広い式場などでは、マスクを外しても問題ないと考える人も増えています。大切なのは、画一的なルールに従うのではなく、その場の状況、参列者の顔ぶれ、そしてご遺族の意向を総合的に判断し、周りの人々を不安にさせない、最も配慮の行き届いた行動を選択することです。葬儀は、故人を偲ぶと同時に、残された人々が互いを思いやり、支え合う場でもあります。マスク一枚の選択に、その人の社会的な見識と、他者への優しさが表れるということを、私たちは心に留めておく必要があるでしょう。