葬儀におけるドライアイス処置と聞くと、私たちは単に「ご遺体を冷やすための作業」と捉えがちです。しかし、経験豊富な葬儀社のスタッフが行う処置は、それほど単純なものではありません。そこには、故人様の尊厳を守り、ご遺族の心を癒やすための、長年の経験に裏打ちされた、様々なプロフェッショナルな技術と、細やかな配慮が隠されています。まず、ドライアイスを置く「量」と「場所」です。ただやみくもに大量に置けば良いというものではありません。ドライアイスを直接ご遺体に当ててしまうと、その部分だけが凍結し、皮膚が変色してしまう「凍結火傷(フリーズドライ)」を起こす可能性があります。プロのスタッフは、ご遺体の状態や、室温、安置日数などを総合的に判断し、適切な量のドライアイスを、必ずタオルや布で何重にも包んでから、効果的な場所に配置します。主に、内臓があり腐敗が進みやすい腹部や胸部が中心となりますが、状況に応じて、首元や足元などにも配置し、全身を均一に、そして穏やかに冷却していきます。次に、故人様の「お顔」への配慮です。ご遺族が最も目にし、心に刻むのが、故人様の最後の穏やかなお顔です。しかし、死後変化によって、お口がわずかに開いてしまったり、頬がこけてしまったりすることがあります。葬儀社のスタッフは、こうした変化を最小限に食い止めるため、顎を支える処置を施したり、頬に含み綿を入れたりといった、専門的なケアを行います。そして、お顔の周りに直接ドライアイスを置くことは、極力避けます。お顔の近くを冷やしすぎると、結露によって水滴がついてしまったり、表情が硬直してしまったりするからです。その代わりに、首の後ろや肩のあたりを効果的に冷やすことで、お顔の状態を自然に保つのです。さらに、プロの仕事は、その「立ち居振る-舞い」にも表れます。ドライアイスを交換するためにご遺族の自宅を訪問する際には、常に故人様に対して、まるで生きているかのように、敬意のこもった言葉をかけます。「〇〇様、失礼いたします。少し冷たくなりますね」。こうした丁寧な所作と声かけは、ご遺体を作業の対象としてではなく、一人の尊厳ある個人として扱っていることの証しであり、ご遺族の心に大きな安心感を与えます。ただ冷やすだけではない、故人への敬意と、遺族への思いやりに満ちた処置。それが、葬儀のプロが見せる、真の技術なのです。